聞き書 広島の食事 中部台地の食より
■朝―麦飯、漬物
ごはんは一日に食べる分を、朝いっぺんに炊く。前の晩にとうすけ釜(一二七ページの写真参照)に仕かけておいた三升の米に、別に炊いてふやかしてある丸麦を入れて炊きあげる。くどは二穴で、一つは平口(平釜)がかかる大きなもの、もう一つはとうすけ釜がかかる大きさで、間にはろうこ(鉄製の湯わかし)がつくりつけになっている。ろうこに水を入れておき、くどで火を焚けば、自然に湯がわく仕組みである。焚き口は、いりい(いろり)の下座から一段低くした板張りになっていて、暖かい。
いりいにも火を焚き、自在鉤にかんす(茶釜)を掛けて湯をわかす。袋に入れた番茶を入れて煮出す。なくなったらお湯をつぎ足し、一日中煮出して飲む。茶袋は茶渋に染まって赤くなっている。
ごはんが炊きあがると上の麦をよけるようにしてお鉢(お仏飯)をとり、家族が食べる前に仏さんにあげる。
家族はいりいを囲んで食事をする。箱膳のふたを返し、茶わんに汁わん、はしなどをとり出し、ごはんをよそってもらう。割ら木のおきの上に五徳を置き、てっき(焼きあみ)をのせて、さあち(漬物皿)に山盛りにしたこうこ(たくあん)や菜っぱを焼きながら食べる。味噌も漬物の上にのせて焼く。味噌や漬物の焼ける香ばしいにおいが家中にたちこめる。ときにはいわし漬(いわしと大根の塩漬)も食べる。いわし漬は小なべで炊きながら、家族みんなでつついて食べる。
写真:漬物も焼いて食べる
冬の朝、こうこや菜っぱを焼くにおいが、家中にたちこめる。
出典:神田三亀男 他編. 日本の食生活全集 34巻『聞き書 広島の食事』. 農山漁村文化協会, 1987, p.108-111