聞き書 奈良の食事 十津川郷の食より
■山行き弁当――麦飯、大根漬、味噌
大谷家の男衆は山に泊まりこむことはしないが、よほどの雪や雨でないかぎり、秋から続く焚き木樵り、炭木の切り倒しや炭焼きなどに、毎日弁当持ちで山へ入る。
弁当用には、前の晩に炊いてよまして(蒸らして)おいた麦に二割ほどの米を足して麦飯を炊く。雷さんが鳴ったらかくれるのにつごうのよいほど大きい五合めっぱ(曲げものの丸い弁当箱)に麦飯を両つぎ(身とふたにつぐ)して、塩のきいた大根漬と味噌をちょんとのせ、ぎゅうっとふたをする。
麦飯はすぐ腹がへるので、山へ行ったときは必ずけんずい(昼食と夕食の間の軽食)用に残し、二回に分けて食べる。だるがついた(冷や汗が出るほど空腹になり、力が出ない)とき、一粒食べるとなおるといわれているので、ごはんを一粒だけ残すことも忘れない。水筒は竹でつくったもの、はしは持たずに山で太いしだの軸を折って使う。
家によっては、茶がいを弁当に入れることもある。「茶がいしぼり」といい、自分の目ん玉が映るような茶がいのなべ底を杓でこいで(かいて)米をすくい、汁をしぼって弁当に入れる。
また、子らには、「炒りもの」といって、なんばきび、大豆、なつ豆(そらまめ)などを炒って、きんちゃくのような袋に入れたものや、干しかいも(さつまいもの切干し)の炊あたの、かぼちゃの炊あたの、さつまいもやほいもの塩炊きなども紙に包んで弁当として持たせる。
写真:山行き弁当
めっぱに麦飯を詰め、竹の水筒と、味噌や大根やしまじゃこなどの菜を持っていく。はしは山のしだの軸を使う。
出典:藤本幸平 他編. 日本の食生活全集 29巻『聞き書 奈良の食事』. 農山漁村文化協会, 1992, p.253-256