聞き書 岐阜の食事 奧揖斐(徳山)の食より
■夜――ひえ飯、ねぎとこしもの味噌汁、たになとにしんの煮もの、ひえかぶらの漬物
ひえ飯にはいろいろあるが、最も一般的なのは、米とひえごのとりあわせである。炊いた米に、ひえごを加えて蒸らす。
味噌汁には、こしもを細かくきざみ、それにねぎを加える。お菜の煮ものには、春のさわやかさそのものの色をしたたにな(うわばみそう)と、春はからだを使う時期なので、あいくさには、ぜいたくなにしん(身欠きにしん)を奮発して入れる。
漬物は、在来種として貴重な、焼畑にできるひえかぶら(かぶの一種で、ひえなかぶらともいう)の塩漬を盛りつける。
春は、味噌汁の実には、山の季節のものが漬け菜類にかわって登場する。おおあざみ、うど、みやまぜり、それに、おどちなと呼ぶおとこえしなどで、汁にえ(えごま)をすりこめばいちだんと味もひき立つ。すったやまいもの落とし汁ともなれば、ごちそうの類である。
お菜では、つんと鼻にぬけるゆがいたせんのうに、たまりをかけて食べるほか、おおあざみとこしもに蒸しいわし(煮干し)を入れた煮もの、ふきと豆(大豆)の煮たもの、漬け菜の煮菜などがある。
冬を越した畑のはるな(在来種の菜)ばかりでなく、干し大根も登場しはじめ、春の食卓は四月をすぎると、山草のとりあわせとともに多彩をきわめてゆく。
写真:春の夕食
上:たになとにしんの煮もの、ひえかぶら漬/下:ひえ飯、ねぎとこしもの味噌汁
出典:森基子 他編. 日本の食生活全集 21巻『聞き書 岐阜の食事』. 農山漁村文化協会, 1990, p.222-224