聞き書 徳島の食事 祖谷山の食より
暖かくなって雪も解けて土が見えはじめると、焼畑や畑の仕事がはじまり、忙しくなる。
焼畑は、家から歩いて二時間ほどかかる山にある。毎年四、五反、山焼きをする。春焼いた畑にひえを播いて、あくる年に小豆を播く。三年目にはみつまたを播く。夏に焼いた畑にはそばを播き、あくる年に小豆を播く。そばと小豆は売って現金収入にしたり、米やそうめん、反物などとの交換に使う。大豆は焼畑にいくら植えても、小さいときははとにやられ、大きくなるとうさぎにかじられ育たないので、焼畑ではつくらず、家のまわりの畑で育てる。
山で仕事をするときは、朝暗いうちに家を出て、まっ暗になってから帰ってくるので、隣りの人の顔を見ないことが、半月ほど続く。山には、山小屋をつくり、杉平家では、おじいさん(舅の父)と子守さんに泊まってもらう。主人は弁当を背負って、主婦は子どもを背負って山へ通う。
山仕事のお弁当には、麦飯を炊いてめんつ(曲げものの弁当箱)かやなぎごり(柳で編んだ弁当入れ)に二食分入れて持って行く。麦飯をめんつのふたのほうにも詰め、両方からぎゅっと押しこむ。ふたを開けると、一食ずつにきれいに分かれる。おかずは、こんこ、はないも(きくいも)の味噌漬、梅漬、味噌、菜っぱ漬などの保存食といりこを持って行く。水のない山へ行くときは、一升びんに水を入れ、木をけずった栓をして、わらで編んだふごに入れて背負って行く。ゆうご(とうがんに似たうり)の中を抜いたひょうたんとっくりのようなものに、水を入れて持って行くこともある。山へ着くと、わらで編んだ網で木の枝につっておく。
ぜんまいやわらびやたけのこがとれるようになるので、山仕事の帰りにとってきて、あく抜きをしたり、乾燥したりして、主婦は夜も忙しい。
茶摘みも、同じ時期に重なる。家のまわりに植えてある茶の新芽を摘んで、なべで炒って自家製のお茶をつくる。
家のまわりの畑では、麦の草取り、ごうしいもの植付け、野菜の種播き、たばこの移植と忙しく片づけ、田植えの準備にかからなければならない。五月下旬には田植えを終え、麦刈りにかかる。仕事に追われているうちに、もうすっかり汗ばむ陽気になっている。
写真:山仕事の弁当
2食分の麦飯をめんつに詰める。おかずは左から味噌、いりこ、菜っぱ漬、梅漬、はないもの味噌漬、こんこ
出典:立石一 他編. 日本の食生活全集 36巻『聞き書 徳島の食事』. 農山漁村文化協会, 1990, p.75-76