春田打ち=重労働に耐える食――日常の食生活

連載日本の食生活全集

2023年04月11日

聞き書 秋田の食事 県南横手盆地の食より


「暑さ寒さも彼岸まで」といい、三尺も積もった雪が少しずつ少なくなり、残った雪も彼岸になると上と下から解ける。久しぶりに現われた黒々とした耕地をみると、苗代に入り、種播きの準備をする。
田や畑で働くようになると、かての押麦は米一升に対して二合くらいに減らされる。田植えに入ると寒搗きの上白米を出して、田の神にも供え、家族もこれを食べる。朝飯も、押麦の量が少なくなると、米の味をとりもどす。重労働に入ると、とくに飯のできぐあいに気を配り、炊きあげて蒸らす時間を十分にとる。
味噌汁は、大根、二度いもなどのほか、しゅんのものとしてひろこ(あさつきの芽)を入れてつくる。薄味の味噌汁に、せり、みつぱ(みつばぜり)の芽や葉を入れることもある。このほか、青菜や玉菜(甘藍)、畑にとり残した白菜のずだち(とう)などのひたしものも食欲をそそる。漬物も冬を越した大根漬など酸味を帯び、独特の味となる。
昼飯は、冬の名残りが続いて、朝飯の残りを出し、味噌汁やたくあん、味噌漬、あぶりざましの塩かど(塩にしん)、いかの塩辛などですませる。湯通しかめでたっぷり熱湯を通した湯通し飯や、茶わんに分けた冷や飯に熱湯をかけた湯ざわし飯のこともある。
暖かい春の陽を吸って、田堰や沼に、つぶ(たにし)やどじょうが出てくる。また玉川の流域では、くき(はや)、ますなどの川魚もとれる。とった川魚は串にさして焼き、蓄え、煮つけにしたり、味噌汁のだしにしたりする。また、そのまま塩をつけて焼く塩くくりや、味噌を塗って焼く、串でんがくにもする。
つぶは、長い柄の先に小さなたもかしゃくしをつけてひろいにいく。多いときは三時間くらいで一斗もひろう。これを桶に入れて水をかえ、泥をはかせ、三、四日すると石の上で殻をたたきつぶして身をとり、きれいに洗ってつぶ貝焼きをする。貝焼きは、大きなほたて貝をなべにして、きゃふろ(貝焼き風呂)に炭火をおこし、一人ずつ味噌で煮ながら食べるなべ料理である。
山菜や野山の野草がいっせいにのびはじめるころ、忙しい中にも南京米用の麻袋などをたずさえて、三々五々、野山に出かける。三月から五月には、ばっきゃ(ふきのとう)、せり、ぜんまい、やちぶき、たらの芽、うこぎ、みず(うわばみそう)、しどけ(もみじがさ)、ぬのば、うど(ほんうど)、いとさく(えぞにゅう)、かたこ(かたくり)、こごみ(くさそてつ)、ひでこ(しおで)、ぜんまい、ほなこ(よぶすまそう)、みずぶき、いわだら(やまぶきしょうま)、わらびなどがとれる。汁の実にしたり、酢味噌であえたり、冬の分を塩漬にしたり、乾燥して保存したりもする。
晩の煮つけには、凍み大根に干しにしんなどが出る。冬越し玉菜のひたしも甘くておいしい。味噌には、よく大根のいちょう切りが入れられる。これに酒粕が入ることもある。

写真:春の夕飯
上:ふきの煮つけ、焼き魚(塩鮭)/中:なすのおき漬/下:麦飯、大根の味噌汁

 

出典:藤田秀司 他編. 日本の食生活全集 05巻『聞き書 秋田の食事』. 農山漁村文化協会, 1986, p.100-102

関連書籍詳細

日本の食生活全集05『聞き書 秋田の食事』

藤田秀司 他編
定価3,850円 (税込)
ISBN:9784540850660
発行日: 1986/2
出版:農山漁村文化協会(農文協)
判型/頁数:A5上製 384頁

ハタハタずし・しょっつる・いぶり大根・各種貝焼(カヤキ)鍋など、自然の要求と人間の要求が一致した発酵食文化の粋・秋田の食事を、農耕・漁労の営みと共に描く。
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