たけのこに歯ざわりと、ふきや田ぜりの香りで――日常の食生活

連載日本の食生活全集

2023年03月31日

聞き書 東京の食事 山の手の食より

亀戸大根のぬか味噌漬で春ははじまる。冬中、台所の揚板の下に眠らせておいたぬか床の手入れをしてから使いはじめる。ぬか味噌漬がよく漬かるようになると、春と感じる。このころ、ぬか味噌漬にする野菜の種類は少なく、亀戸大根のほかは練馬大根ぐらいである。
八百屋の店先にも、いかにも春といったみつば、ふき、田ぜり、木の芽など香りの高い野菜がつぎつぎとでてくる。独特の味わいのするたけのこ、風味のあるあさつきも、この季節のおかずの材料として見のがせないものである。
たけのこはふきとの煮ものや、鶏肉も一緒に炊きこむたけのこごはんにするとおいしい。ふきのとうは細かくきざんでふき味噌に、ふきはきゃらぶきにする。また、青くゆであげ、おかかをかけて、ふきの香りと風味そのものを味わう。
みつばや背丈の短い田ぜりは、おひたしやごまよごしにして、焼き魚ととり合わせる。あさつきは凍み豆腐と合わせて卵とじにしたり、ぬたにしてよくいただく。
豆のないこの時期、里から届いた青ばた豆(ひたし豆)はゆでて、醤油と味の素を少しかけておかずにする。
三月の中旬から四月の中旬ごろまでのほんのわずかの間、さんしょうが芽吹く。木の芽は豆腐でんがくにはつきもの。薄く切った豆腐を一本の串にさして網で焼き、木の芽をきざみこんだ赤味噌を塗っていただく。さんしょうの芽吹きどきだけのごちそうである。
昼――ごはん、いわしの丸干し、あり合わせのもの
昼食はとくになにもせず、残飯整理みたいなもので、常備菜とか、前日残ったたけのことふきの煮ものとか、いわしの丸干しを焼いていただくくらいで、臨機応変にすませる。

写真:春の昼食
上:亀戸大根のぬか味噌漬、ふきとたけのこの煮もの/下:ごはん、いわしの丸干し

 

出典: 渡辺善次郎 他編. 日本の食生活全集 13巻『聞き書 東京の食事』. 農山漁村文化協会, 1988, p.102-104

関連書籍詳細

日本の食生活全集13『聞き書 東京の食事』

渡辺善次郎 他編
定価3,850円 (税込)
ISBN:9784540870989
発行日:1988/2
出版:農山漁村文化協会(農文協)
判型/頁数:A5上製 384頁

昭和初期、巨大都市・東京人は何を食べ、どう暮らしていたか。下町と山の手、都市部と農村部に目配りしつつ、深川・本所・日本橋から世田谷・葛飾・大森・奥多摩・伊豆大島などでの四季折々の食事の世界を再現する。
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