聞き書 鹿児島の食事 鹿児島市(商家)の食より
花見のころになると、店員や女中さんたちの家から、たけのこやつわぶきなどが届けられ、木々の若芽も吹いてくる。谷山(海岸)のほうでは貝(二枚貝)がとれるようになり、磯で貝やびな(巻き貝)とりもはじまって、春のぬくもりが肌に伝わってくる。
■夜――からいも入り麦ごはん、寄せなべ、したけの酢のもの
春とはいえまだ冷えるので、からだの温まる寄せなべをよくする。
寄せなべの汁は鶏のがらでだしをとり、鶏肉や豚肉、豆腐、白菜、しいたけなど材料を数多く入れるので味がよい。寄せなべをした翌朝は、この残り汁にごはんを入れ、おじやにして食べると、また格別においしい。
春は貝がおいしい季節なので、したけの酢のものをつくり、ほうれんそうをつけ合わせる。貝のほかにえびも味がよいので、伊勢えびを煮つけやフライにしたり、芝えびと豆腐を味噌んおっけにして、しゅんぎくをさっとゆでて浮かして食べたりする。
写真:春の夕食
左下3品:からいも入り麦ごはん、したけの酢のものとほうれんそう、たくあん漬/右:寄せなべ
出典:岡正 他編. 日本の食生活全集 46巻『聞き書 鹿児島の食事』. 農山漁村文化協会, 1989, p.23-24