聞き書 熊本の食事 県南の食より
秋のはじめ、まだ夏の暑さが残っている彼岸前後には、味噌、醤油、醤油の実の仕込みをする。また漬物用大根の種播きと忙しい。
そうしているうちに、いよいよ稲刈りである。日雇いを三人ほど頼み、稲を刈ってしまった夜は、おはぎと煮しめで鎌あげ祝いをする。また、米をこいでしまった夜は、おはぎや煮しめ、いわしの尾引きに焼酎で、千歯あげをする。
こいだ米は、天気のよい日にねこぶき(わら縄を編んでつくった大型のむしろ)に広げて干す。その間に麦つくりの準備やいも掘りをすませてしまい、十一月の末には、米すり(籾すり)を行なう。その日のおやつには、小豆が入ったきりだご汁を大なべにつくって食べる。また米すりが終わると、魚の煮つけや刺身で米すり祝いをする。すった米は俵に入れて米小屋に保管しておき、必要なときにとり出して現金に換える。
米すりがすむと、麦の種播き、そして藺田植えと続く。
■朝――麦飯、新味噌のおつけ、醤油の実
麦飯と、里芋や大根の入ったおつけに、できたての醤油の実が食卓に上る。おつけは搗いて一か月ほどたった新しい味噌を使うので、ほのかにこうじのにおいが漂ってくる。醤油の実には、しその実の塩漬、きざみこぶやしょうがなどを混ぜると、いっそうおいしくなる。大根葉の一夜漬には、ゆずの酢をちょっと落とすと、その風味のよさにますます食欲がわいてくる。
写真:秋の朝食
飯台:麦飯、梅干し、おつけ(里芋、かぼちゃ)/台の外:大根葉の漬物、梅干し、醤油の実
出典:小林研三 他編. 日本の食生活全集 43巻『聞き書 熊本の食事』. 農山漁村文化協会, 1987, p.248-249