聞き書 埼玉の食事 川越商家の食より
大旦那やおかみさんの実家から、新米をはじめ栗、まつたけ、やまいも、柿などがたくさんに届けられるが、秋の味覚の代表はなんといってもさつまいもである。
また、青物商の店頭には、涼風の立つころから白身の多い秋ねぎが立てかけられ、にんじん、ごぼう、大根もよく太って豊富に出回り、実のしまったおいしい野菜が食卓にあらわれる。魚屋でも、秋さばやあじ、たら、さんまがほうろうのバット(平皿)の中に青光りして並び、いかにも食欲のそそられる季節を実感する。
■夜――麦入りごはん、さんまの塩焼き、ゆず味噌でんがく、お吸いもの
秋はさんまの塩焼きがおいしい。さんまを二つ切りにして四角い足つき七輪で焼く。七輪は、土蔵の黒壁のようにていねいに仕あげられている。火種の上に消炭、次に炭を入れ、さらにならまるか下等な堅炭を使ってさんまを焼く。熱いさんまにゆずをしぼり、大根おろしをたっぷり添えて食べる。
このほか、大根と油揚げの煮つけを添えたり、ゆでて串にさした里芋とこんにゃくのゆず味噌でんがくをする。また白菜の煮びたしもよくつくる。
お吸いものは、とろこぶ(とろろこんぶ)におかかと醤油を入れ、上から熱湯を注いだものがよく合う。おこうこは、きゅうりとなすのぬかみそ漬、また酸っぱくておいしいらっきょう漬など。
写真:秋の夕食
上:らっきょう漬、きゅうりとなすのぬかみそ漬/中:大根と油揚げの煮もの、さんまの塩焼き/下:麦入りごはん、とろこんぶのお吸いもの
出典:深井隆一 他編. 日本の食生活全集 11巻『聞き書 埼玉の食事』. 農山漁村文化協会, 1992, p.277-281