聞き書 三重の食事 紀伊山間の食より
晩秋から初冬にかけて熊野灘で水揚げされるさんまは、脂もほどよくしまって、すしにはもってこいのたねである。また、この時期は多量にとれるので値も安い。このあたりではこのさんまを大量に買いこんで、加工して貯蔵する。これがぬか漬である。必要に応じて貯蔵樽からとり出して利用する。塩抜きしてすしに押したり、焼いて弁当のおかずにしたりする。
ぬか漬にするには、三〇ぴきから六〇ぴきのさんまを買う。内臓をとり、丸ごと塩とぬかを交互にふって、小判形のぬか漬専用の桶に並べてゆく。夏近くまで貯蔵する年もあるが、これくらいまでもたすとなると、塩はから塩にしなければならない。六〇ぴきに塩四合、ぬかが六合である。桶の底にぬかをふり、塩をふり、さんまを並べ、またぬかをふり、塩をふる。こうして一〇段くらい、大根を漬けるときのように重ねて、最後にぴっちりした小判形のふたをする(ねずみなどが入らないために)。上には二貫目くらいの重石をのせる。正月のさんまずしは、ほとんどこのぬか漬のものを用いる。
塩抜きは、茶わん五杯ほどの水に塩を三本指でつまめるぐらい入れた薄い塩水をつくり、三〇分くらいつける。これから、すしなら酢につけるし、弁当のおかずなら焼くのである。
あゆも、たくさんとれた年にはこうして貯蔵する。
写真:さんまのぬか漬をつくる
出典:西村謙二 他編. 日本の食生活全集 24巻『聞き書 三重の食事』. 農山漁村文化協会, 1987, p.205-206