聞き書 山梨の食事 甲府盆地の食より
三月ともなれば、きびしい寒さもやわらぎ、草木は芽生え、農家では内仕事から田畑の作業に移る。麦踏み、麦うねの草取り、ほおりこみ(土入れ)、じゃがいもや里芋の植付け、なす、きゅうりなど夏野菜の種播き、移植など、畑仕事が忙しくなる。「暑くも寒くも彼岸まで」というが、彼岸を境に農作業も本格的となる。
五月上旬から養蚕がはじまり、春蚕の掃立て、水稲の苗間つくり、桑園の草取り、桑摘み、蚕の飼育、田植えの準備などつぎつぎに仕事に追われる。
冬中貯蔵しておいた生野菜類もそろそろ底をつくころ、霜の下から春一番に芽吹くのがなずなやふきのとうである。また屋敷まわりや畑の畔、田のあぜなどから、せり、ふき、のびる、もちぐさ(よもぎ)などが、畑からは、冬越しのほうれんそう、さやえんどう、ねぎ、うどなどが急に生長してくる。川、沼、田んぼからは、どじょう、ふな、うなぎ、しじみ、つぼ(たにし)などがとれ、くわいも自生していて、毎日のおかずになるものが手近で得られる。忙しいなかで、家族の疲れを払う料理をつくる主婦の繰り回しも必要となる。
■お茶のこ――麦飯、里芋と青菜の味噌汁、きゃらぶき、たくわん漬
一年中、お茶のこの麦飯は、昼飯分と一緒に夕飯後に鉄釜に仕かけておき、早朝に炊いておく。味噌汁には、種いもにした残りの里芋をよく利用する。忙しくなるのできゃらぶきやなめ味噌など、つくりおきしておいて利用する。
写真:春のお茶のこ
麦飯、里芋と青菜の味噌汁、たくわん漬、きゃらぶき
出典: 福島義明 他編. 日本の食生活全集 19巻『聞き書 山梨の食事』. 農山漁村文化協会, 1990, p.24-26