山菜とにしんの煮しめで春を味わう――日常の食生活

連載日本の食生活全集

2024年04月24日

聞き書 福井食事 奥越山間の食より


貯蔵野菜やすなながなくなるころ、山の雪解けの間から、春の訪れを感じさせるふきのとうやぎんばり(ぎぼし)、いたどりが芽を出す。こぶしの花が咲くと、ぜんまい、うど、ふき、たにふさぎ(みずぶき)、たけのこなどの山菜の季節である。
たくさんのふきやうどがとれると、塩漬けにする家もあるが、塩は金を出して買うものなので、ふんだんに使って塩漬するわけではない。うどはぬか漬、たけのこは塩漬にし、ぜんまい、わらび、ふきは干して冬まで保存し、青ものの少ない冬にもどしては食べる。
男は、このころ、かんじきをはき、山へ焚き木と薪をこしらえに出かける。春木伐りは、一年中いろりで燃やす薪をつくる仕事である。これは各家々のほい山(焚き木を伐る山)で行なう。焚き木伐りの仕事がはじまり、山の中の雪が消えるころになると、長い冬ごもりから、野良仕事への生活がはじまる。
女は、春先まで機織りをし、畑の雪が消えると、畑の準備にとりかかる。四月二十五日の吉崎で行なわれる蓮如講(蓮如さんのお徳をしのんでおまいりする講)にまいってきてから、種籾下ろしをする。また、雪解けとともにじゃがいもも植える。
このころの朝のごはんは、ひえ飯かとうきび飯で、これに、じゃがいもとにんじん、すななの入ったおつけ、漬けもんで食べる。昼は、えりことひえ飯、じゃがいものちんころ煮、山菜の煮つけ、お葉漬などである。夜は、ぞろに、おつけ、ふきとにしんの味噌炊き、たくわんなどを食べる。

写真:春の夜け
上:ふきとにしんの味噌炊き、たくわん/下:いもぞろ、おつけ(じゃがいも、大根葉)

 

出典: 小林一男 他編. 日本の食生活全集 18巻『聞き書 福井の食事』. 農山漁村文化協会, 1987, p.89-91

関連書籍詳細

日本の食生活全集18『聞き書 福井の食事』

小林一男 他編
定価3,850円 (税込)
ISBN: 9784540870187
発行日: 1987/6
出版:農山漁村文化協会(農文協)
判型/頁数:A5上製 384頁

木の芽峠を境に嶺南と嶺北に分かれる福井県は越前と若狭の二国から成る。報恩講を開いては食を共にして絆を深めあう越前、海の幸と山の幸がともに食膳にのぼる若狭の国。
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