聞き書 山形の食事 村山盆地の食より
「暑さ寒さも彼岸まで」とよくいわれるように、太陽の日ざしにも春を感じ、田んぼの雪も目に見えてすくんで(減って)、たちまち黒い土があらわになる。そのころから、種籾の芽出し、苗代つくりなど、農作業の準備にとりかかる。毎日のごはんも大根飯から麦飯に変わり、おいおい力仕事にからだをならしていく。
「苗代半作」というように、苗のよしあしで作柄の半分は決まってしまうので、苗代管理にはことのほか気をつかう。一方、本田では、田うない(田起こし)にはじまり、土つぶし、くれ切り、代かき、田ならしの作業を終えると、やっと田植えができる。
これから「猫の手も借りたい」家族総出の農繁期。朝四時起きして朝仕事をし、夕方七時半ころまで田植えである。
田植えは雨が降っても休みはしない。むしろ苗がよく根づくので、みの笠つけて作業を続ける。小学校も農繁期休みで、子どもたちもそれぞれ助っ人になり、働く。こうして毎日一〇時間から一二時間労働で、二週間前後続くのである。主婦や鍬頭(農作業の指図をする人)は緊張の連続で、心身ともに疲れはてる。
■小昼――にぎり飯、凍み大根とにしんの煮もの、くきたちのおひたし、大根漬
田植えをしている人たちは、午前一〇時と午後三時ころ、小川の水で手を洗って、草むらや土手、広いくろに、自分のみのを敷いて腰を下ろす。重箱をあけると、きな粉や黒ごまをまぶしたにぎり飯、煮もの、漬物などが入っている。ほとんど手皿で食べる。重箱や飲み水は、手伝い、ゆい、手間とり(働き人)の受け入れ側の家の、主婦や子どもが運んでくる。
写真:田植えどきの小昼
〔左の重〕きな粉とごまのにぎり飯/〔右の重〕にしんの煮もの、凍み大根の煮もの、大根漬、くきたちのおひたし
出典: 木村正太郎 他編. 日本の食生活全集 6巻『聞き書 山形の食事』. 農山漁村文化協会, 1988, p.22-24