聞き書 秋田の食事 県央男鹿の食より
北浦の上野家では、風の冷たい、まだ暗い四時前には起きて、水くみ、ごはんのしたくをすませ、山の畑へ向かう。早起きするのは山の畑が半里ほども離れているためで、畑に着いてやっと明るくなるように家を出るのである。着いたらすぐに農作業に精を出し、一仕事してから家に帰って朝のごはんを食べる。
このように早起きして自分の家の畑仕事を早く終わらせるのは、近所の農家から馬で田打ち(耕起)してもらった分を、自分の手間で返すためである。
このあたりの春の食事は、朝は米のごはんに山菜や海草の味噌汁、納豆と大根おろし、大根の切干しや山菜のあえもの、たくあん漬、きゅうりの古漬などである。
お昼は、田畑が遠いため、乳飲み子がいない限り弁当を持っていく。弁当は、ごはんに焼き魚、たくあん漬などを入れる。片すみには必ず生味噌を入れていき、干してあるわかめを水にもどし、弁当の縁を利用して大根の皮を引き、生味噌を水で溶いてわかめや大根を入れ、味噌汁がわりにして食べる。
写真:畑仕事に持っていく弁当
左:ごはん、塩鮭、塩いわし、たくあん漬/右上:大根、干しわかめ、生味噌/右下:冷や汁
出典:藤田秀司 他編. 日本の食生活全集 5巻『聞き書 秋田の食事』. 農山漁村文化協会, 1986, p.26-27