聞き書 京都の食事 丹波平坦の食より
六月になると、宮津から魚屋がいわしを売りにくる。春蚕の上蔟が終わったころである。主婦はこの日を待ちわびている。戸ごとに、どさりどさりといわしの入ったとろ箱が下ろされる。
春蚕の疲れがとれないうちに、主婦は手ぎわよくこのいわしの処理をしなければならない。
すずめずしのつくり方は、まず、すし飯を炊く。白飯である。いわしの頭とはらわたをとり、開いて骨を抜く。このとき、尾びれがちぎれないように気をつけて残す。次に甘酢につけて身をしめる。開いたいわしの大きさに合わせてすし飯をにぎり、いわしをのせる。
ぴかっと光った色合い、ぴんとはねあがったしっぽ。これこそすずめずしである。紅しょうがをかみながら食べる。
思いがけない、予定外の農休日のこの日は、あすからの農作業にもりもりと意欲のわきでる一日である。
出典:畑明美 他. 日本の食生活全集 26巻『聞き書 京都の食事』. 農山漁村文化協会, 1985, p.204-204