聞き書 長崎の食事 北松浦・壱岐の食より
北松浦特有の正月の食べもので、元日の朝、神仏にまいったあと屠蘇を飲み、ついでお茶と歯がためをいただく。新年に最初に口にする食べもので、飯の菜、酒のさかな、茶うけとしても使い、どこの家庭でも必ずつくるが、それぞれの家庭の味がする料理である。
歯がための意味は、平安時代、宮中で行なわれていた正月の儀式の「歯固め」が伝わったものといわれ、年の始めに当たって歯(齢)を固める、つまり健康、長寿を祈る儀式が料理名になったのであろう。
干し大根一斤に野菜こぶ二本、つるし柿一〇個、梅干しを用意する。梅漬のしそとしそ汁は好みによって入れる。
干し大根は水につけてやわらかくし、たわしで洗って、水気をふきとる。縦半分に切ってから小口切りし、塩でよくもんでさらにやわらかくする。こんぶははさみで細かく切る。つるし柿と梅干しも種つきのまま適当に切る。種を出すところもある。しそも細かく切る。
これらにしそ汁、煮砂糖(三温糖)、醤油をふりかけて、よくもんで味をなじませる。二、三日たってからがおいしく、どこの家庭でもかめいっぱいにつくり、一か月くらい食べる。干した野菜と果物を使った、北松浦独特の正月料理である。
たいがいは大みそかにつくるが、これができあがると、正月を迎える準備の大半が終わったような、ほっとした気持になる。
写真:歯がため大根 干し大根、つるし柿、梅干し、野菜こぶ
出典:月川雅夫 他. 日本の食生活全集 42巻『聞き書 長崎の食事』. 農山漁村文化協会, 1985, p.177-178