聞き書 栃木の食事 日光山間(栗山)の食より
■五月節供
ひえ播きが終わり一息つくころ、五月節供がやってくる。頬をよぎる風は、からっとしてあくまでもさわやか。木陰に入るとひんやりとする。五月節供のころは、萌えいずる葉っぱで山がまっ青になる。各家々では、軒先によもぎとしょうぶを飾りつけ、晩にはしょうぶ湯をたてて入る。このとき、頭にしょうぶの鉢巻きをすると脳病みしないという。
五月節供のごちそうは、いわなをだしに、ばんだいもち(うるち米のもち)を煮こんだよっこもち、大豆を水に浸し、芽が出たところを食べるつの出し豆、それにかしわもち、豆腐でんがくなどである。水ぬるむこのころは、いわな、やまめの動きが活発となり、絶好の釣りの時期でもある。節供の前日に男たちが釣りあげてきたやまめやいわなをふんだんに用いたよっこもちは、まさにこの時期ならではの食べものである。
五月節供がすぎると、しだいに太郎山の頂に雲がかかる日が多くなる。梅雨入りを間近にひかえて、男も女もさんしょううおとりの準備にとりかかり、再び多忙な時期となる。さんしょううおは、いろりの煙でいぶして東京方面に出荷するといい値になる。
写真:よっこもち
五月節供のごちそう
出典:君塚正義 他. 日本の食生活全集 9巻『聞き書 栃木の食事』. 農山漁村文化協会, 1988, p.88-89