聞き書 岩手の食事 奥羽山系の食より
春先、五月ごろにはかどが大量に出回るので、田植え用のすし漬がつくられる。それ以後は、気温が高くなるので腐りやすいため、つくれない。
漬ける容器は、すし漬樽といって丸または小判形のふたつきの専用樽で、どの家でも四、五個はもっている。
一回につくる量としては、かどが二五~三〇本くらい。それに、一升のごはん、同量のこうじ、茶わん山盛り一杯の塩で漬け床を用意する。かどは、斜めにぶつ切りにし、少々の塩と酢をふりかけて二晩ほど下漬けする。ごはんとこうじを混ぜて一晩おいて、これに塩をいくらか塩からいていどに入れて混ぜ合わせる。樽にごはんを敷き、その上にかど、ごはん、かど、と交互にきっちり並べ、最後にさんしょうの葉や笹の葉、朴の葉などを敷きつめて重石をしておく。
ごはんとかどの間に、さんしょうの葉や笹の葉を敷いて漬ける人もある。笹の葉は腐敗防止を考えてのことである。
漬け込んでから一〇日ほどで食べごろになる。田植えは六月十日ごろから半月くらいかかるが、その期間ずっと食べられるように準備するのが、このあたりのならわしになっている。
出典:古沢典夫 他. 日本の食生活全集 3巻『聞き書 岩手の食事』. 農山漁村文化協会, 1984, p.314-315