聞き書 京都の食事 京都近郊の食より
京都盆地の暑さは、また格別である。夏ばて解消、疫病よけなど、いろいろのくふうがされている。
六月三十日は水無月で、この日には夏越しのまじないとして、小麦粉でつくった「水無月」を食べる。これに使う小麦粉は、新しい麦がとれたところで、家で石臼でひいたり、粉屋でひいてもらったりする。でき上がった水無月は適当な大きさの三角形に切り、神さま、仏さまに供え、家族全員が少しずつでも食べる。
この水無月のいわれを、古老は次のように話す。「京都の北山に氷室という村があって、そこは雪がよく降る。その雪を室の中へ保存しておいて、夏六月三十日に御所に献納することになっている。庶民にはとうてい手に入れることのできないものだ。そこで、小麦粉を使ってだんごをつくり、氷のように三角に切って、氷に見たてたのだ」と。暑気ばらいの行事である。
写真:暑気ばらいに食べる水無月
出典:畑明美 他. 日本の食生活全集 26巻『聞き書 京都の食事』. 農山漁村文化協会, 1985, p.28-30