聞き書 石川の食事 金沢商家の食より
この季節はなにかと出費の多い時期である。商家では、娘の嫁ぎ先や得意先や親せきへは中元を届けなければならない。おかっつぁんやおわねさんたちは、七月一日から十五日までの間お中元回りで出かけることが多くなる。それでも、品物の手配や家の中の切りもりは手抜きができず、休む間もない時期である。
■氷室(七月一日)
この日は、特別につくられた氷室まんじゅうをまんじゅう屋から買ってきて食べ、一家の健康を喜び合う。氷室まんじゅうは、赤、白、緑の三色の酒まんじゅうで、小豆あんが入っている。これを食べると一年中風邪をひかずに健康にすごすことができるといわれている。娘の嫁ぎ先へも一〇〇個届ける。
この日は、もともとは加賀藩が冬の間に室へ貯蔵しておいた雪氷を、江戸の将軍家へ早かごで献上した日である。享保年間に、この氷が無事に届くようまんじゅうを供えて神社に祈願し、町民たちもこれにならい、氷のかわりに氷室開きまんじゅうを食べたのがはじまりとされる。
女の子たちは「ままごと遊び」をする。きゅうりを切って梅酢に漬けたものと、あんず、びわ、ちくはべん、氷室まんじゅうを皿に盛り合わせて、近くの友だちの家へ一皿ずつ持って回る。お返しにはまた同じものが届けられ、やったりもらったりである。
写真:氷室まんじゅうと、ままごと遊びのごちそう
きゅうりの梅酢漬、ちくはべん
出典:守田良子 他. 日本の食生活全集 17巻『聞き書 石川の食事』. 農山漁村文化協会, 1988, p.30-32