聞き書 新潟の食事 蒲原の食より
夏は祭りと盆とがあって、正月以上に一年中で一番楽しみの多い季節である。仕事も田の草取りが終わり、俵編みや縄ないと、家の中の作業に変わってくる。梅干しつくり、げんのしょうこ干しなど、小さな仕事はあるが、稲刈り前の一服の季節といえるのが夏である。なかでも大きな行事の一つが天王祭りである。
潟の対岸に、須佐之男神社のある大きな森が見える。七月五日は近郷きっての祭り、天王祭りの日であって、方々から親せきや知人がお客にくる。この日に欠かせない笹だんごは、前日に五升分もつくっておく。春に摘みとったよもぎ、いい粉、それにもち米粉も混ぜてつくる。砂糖を多めに使ったこしあんを入れる笹だんごつくりは、一日たっぷりかかる大仕事なのである。
客のお膳には、ふな汁、ふなの煮つけで、この季節、めいご(はや)の焼きものはとくにおいしい。なまずも、いつもより手をかけて蒲焼きにする。あとは、きゅうりの酢のものでもあれば上等である。
昼食をすますと、客人たちとうちそろって、家の裏の川渡(川につくった階段)から舟に乗って潟を渡り、天王さままいりにいく。境内には出店やサーカスがかかり、にぎやかな中を歩いて見るだけでも楽しい。そのうえ、たたき売りのバナナや蒸気パンを買って口へ入れることができるのもこの日だけである。
写真:天王祭りの膳
上:なまず蒲焼き、きゅうりなます、ふな煮つけ/下:笹だんごとちまき、ふなの味噌汁
出典:本間伸夫 他. 日本の食生活全集 15巻『聞き書 新潟の食事』. 農山漁村文化協会, 1991, p.25-27