聞き書 愛知の食事 愛知山間(奥三河)の食より
秋は、つるべ落としの日の短さと競い合って働く。
このころには馬の市があちこちに立つ。博労さが回って来るので、馬をくんだり(とりかえたり)、売り買いするときは、袖の中に手を入れ、にぎり合って相場を決め、うまく折り合うと、しゃんしゃん手をたたく。
稲をはざ(稲架)にかける時分になると、旅役者が回って来るようになる。芝居小屋は、近くの畑に竹を立て、むしろで囲った掛け小屋で、ふつうは三日間だが、ときには日延べして四日になることもある。
シゲヨさんは芝居が大好きで、稲の片づけをしていても落ち着かず、義太夫をうなりながら手を動かすほどである。生命保険が満期になったりすると、おとっつぁんが張りこんでつぼ(枡席)を買い、家中の者が三日間、とく弁(弁当)を詰めて見物に出かける。芝居小屋で売り子から菓子を買い、近所の人へのみやげにして、いい気分で帰ってくる。
このころになると、たついもが食べられるようになる。たついものいもがらは、わらでしばって軒につるす。大根を引き(掘り)、干しあげて、たくわんを漬けるしたくをはじめる。たくわんが漬かるまでのつなぎに、しゃくしなも二斗樽いっぱい漬ける。
男衆はへぼとりややまいも掘りに忙しく山へ行き、しめじやくりたけをとって帰ってくる。きのこは干しておいて、お客が来たとき、きのこ飯を炊く。
写真:芝居見物のとく弁
麦飯に、たついもやふきの煮ものなどのお菜を添え、おかもちに入れていく。
出典:星永俊 他. 日本の食生活全集 23巻『聞き書 愛知の食事』. 農山漁村文化協会, 1989, p.292-292