いとこ煮

連載日本の食生活全集

2021年10月13日

聞き書 山口の食事 城下町萩の食より


冠婚葬祭などの客ごとのときに、必ずこしらえる。慶事には、もち米の粉でつくった紅白のだんごとかまぶこ(かまぼこ)を入れ、仏事には白いだんごを入れ、紅だんごとかまぶこは入れない。
小豆は地場の新しいものに限る。萩町の隣地、福川の福井村でとれる大納言を収穫時に買い、一升びんに入れて保存しておく。こうすると虫がつかないし、品質も落ちない。
小豆三合にたっぷりの水を入れて火にかけ、沸騰したらゆで汁をすてる。また水を入れて火にかける。これをもう一度くり返す。このとき、沸騰して湯が踊らないように気をつける。三度目の水を入れたら、中ぶたをして炊く。なべの中は、中ぶたの上に常に湯が上がっていて、中は静かにとろとろとしている状態がよく、この状態で一時間ほど炊く。これで、新小豆ならふっくらと煮えるはずである。
一年前に収穫された小豆の場合は、煮えていないことがあるのでようすをよく見なければならない。小豆を一つまみほど中ぶたの上に置いて炊くと、煮え加減をみるためにつごうがよい。途中で中ぶたをとると皮が破れてしまう。皮が破れないでふっくらと炊けているのが上手な煮方である。
なべの中の小豆の量より少し多めの水にだしこぶを入れてだし汁をつくる。しいたけ三、四枚を水に浸してもどし、細く切ってだし汁の中に入れ、白砂糖一〇〇匁を入れて火にかける。しいたけが煮えて砂糖が溶けたら、火を止める。
煮小豆と砂糖味のだし汁の温度が体温より少し高いくらいのときに、両方を合わせる。こうすると、味がよくなじむし腐りにくい。小豆のなべの中ぶたのへりから、甘いだし汁を静かに入れて、一晩おく。だしこぶの塩気が少しあるはずだが、ほんの少し塩を入れる。
小指の先より少し大きいくらいの丸い白玉だんごをこしらえて、熱湯でゆでて水にとり、網杓子ですくって冷えた小豆の汁に入れる。また、花麩を水でもどし、ゆでて、邪魔にならないていどに入れ、かまぶこは小ぶりのいちょう切りにして入れる。
盛りつけは、ふつうのおしるこの半分くらいの量がよい。お茶席の一口吸いもののわんくらいの、小さな気のきいた塗りものの器によそう。「いとこ煮は萩の名物冷たけれ」という句があるように、冷たいほうがおいしいので、温めることはしない。大変上品なよい味である。おつゆが、ぜんざいのように濁っておらず、澄んでいるのが萩のいとこ煮である。

写真:秋祭りのいとこ煮
小豆の甘い汁に、白玉、しいたけ、花麩、かまぶこがいろどりよく浮かぶ。

 

出典:中山清次 他. 日本の食生活全集 35巻『聞き書 山口の食事』. 農山漁村文化協会, 1989, p.304-305

関連書籍詳細

日本の食生活全集35『聞き書 山口の食事』

中山清次 他編
定価3,038円 (税込)
ISBN:9784540890017
発行日:1989/4
出版:農山漁村文化協会(農文協)
判型/頁数:A5 382頁

日本海、響灘、周防灘の三つの海に囲まれる山口県は、西日本の陸海交通の要衝。維新以来、歴史を動かしてきた地の人々の暮らしの呼吸と食べものを伝える。
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