鳥の巣を祝っておはぎをつくる―晴れ食・行事食

連載日本の食生活全集

2021年10月18日

聞き書 新潟の食事 蒲原の食より


刈りとっていく稲の中に鳥の巣があると豊作、という言い伝えがあり、見つかった家は鳥の巣を神棚に上げ、お祝いとしておはぎか五目飯をつくるならわしがある。だれか一人が「巣が見つかったぞう」と叫ぶ。本物のこともあれば、こしらえものの巣のこともある。たとえ嘘でも、みんなは承知のうえで祝い言葉をかけ、おはぎをつくる。
長くきびしい秋の収穫作業が終わると、刈上げの日がことのほか待たれてくる。刈上げは例年十月二十七日に部落いっせいに行なう。砂糖をたっぷり入れたおはぎのほかに、珍しく茶わん蒸しがつくられる。鶏は飼っているが、卵を食べると次の子どもが早く産まれるという迷信があって、日ごろ卵料理はほとんどつくらず、市に持っていってみんな売ってしまう。
おはぎは必ずつくるが、もちも搗く。この日のもちは今年最後のおかこもち(臼の中でちぎって丸めたもち)であって、これからはのしもちになる。もちが切りかわると、秋が終わって冬になるのだという思いがする。
稲刈りが終わると、大豆の脱穀の仕事が待っている。そのころ、十一月十四日に水神さまの日がある。生きている魚を二ひき神棚に供え、後で川に放つ。家族は白いごはんに豆腐汁の夕食。続いて十一月十六日は田の神さま。大福もち一六個を供えて、家族もこれを食べる。忙しさも峠を越し、水と田の神さまの祭りも終わって、ほっと落ちついた気持で福島潟越しに五頭山を見上げる。

写真:刈上げの膳
上:茶わん蒸し(油揚げ、ねぎ、きのこ)、きゅうりの漬物/下:おはぎ

 

出典:本間伸夫 他. 日本の食生活全集 15巻『聞き書 新潟の食事』. 農山漁村文化協会, 1985, p.29-29

関連書籍詳細

日本の食生活全集15『聞き書 新潟の食事』

本間伸夫 他編
定価3,038円 (税込)
ISBN:9784540850257
発行日:1985/8
出版:農山漁村文化協会(農文協)
判型/頁数:A5 378頁

「炊く」「蒸す」「搗く」「こねる」「焼く」。お米をさまざまに味わい分けてきた新潟県内を六つの食文化圏に分けて、それぞれの地域の豊饒を語ってもらう。
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