聞き書 石川の食事 加賀平野の食より
大根と大根葉を一緒に塩漬けしたものをおくもじという。
漬物は塩加減と重石で味が決まるというが、この漬物はまさに、塩と重石の妙味で生まれる絶品の味がある。年中保存し、漬物として、あるいはおかずとして重宝に利用できる。とくに、冬と夏は葉ものが少ないので、どの家でも桶にどっさりと漬ける。
おくもじは、十二月上旬に引いた大根のなかから、たくあんや浅漬、生食用の越冬用を確保した残りのくず大根を利用して漬ける。細い大根もいたんだ切れはしも、全部生かされる。家族四人で、みかご(竹製かご)に二杯ほどの大根を用意し、塩六合の割合で漬ける。
大根の白い部分は短冊に切り、葉は長さ一寸五分に切る。二斗樽に大根と大根葉を切りながら詰め、塩をふり混ぜ、手で押さえていく。一度に桶の中へ入れるとすぐにいっぱいになるのでしばらく休む。夕方になると、午前中に漬けたものは塩気を含み低く下がるので、また切っては入れていく。二斗樽にぎっしりおくもじを詰めこみ、中ぶたをして重石をする。二、三日して水が上がってくれば、もう食べることができる。
漬けはじめのころは葉の緑も美しく、大根のさくさくとした歯ざわりと少々の辛みがあって、そのまましぼって食べるのがおいしい。その後は、そのまま煮るか煮こぼして塩抜きし、味噌か醤油で味をつける。煮るとあめ色になるが、味はなかなかよく、汁わんに二杯も三杯もおかわりして食べる人も多い。
写真:煮て食べる漬物
おくもじ(左)や、てんばおくもじは塩出しして煮て食べる。
出典:守田良子 他編. 日本の食生活全集 17巻『聞き書 石川の食事』. 農山漁村文化協会, 1988, p.110-111