煮炊きも食事もいろりが中心―日常の食生活

連載日本の食生活全集

2021年12月09日

聞き書 岐阜の食事 飛騨白川の食より

秋のとり入れが終わる十月下旬、全村が赤と黄で錦を織りなし、大がやの穂が北風にゆれる。天生峠からの眺めはまことに雄大で、ここの紅葉は日本屈指であろうと村人たちは誇りにしている。しかし、この紅葉に一抹の寂しさも感じる。これからの長い冬ごもりに耐えなければならないからである。
天生峠をおりた荻町、鳩谷の二つの大集落は、白川村の中心地である。冬は風がなく、湿気を含んだ雪で全村がやがて白一色の銀世界へ変わっていく。どの家にも、二丈もの雪に備えて高い雪囲いがされ、冷たい谷水を利用して菜洗いがはじまる。赤かぶの切り漬と長漬(葉つきのかぶをそのまま塩漬したもの)、それに大根葉の漬けこみなど、家中総出で冬のやわい(準備)で大忙しである。
朝―とちもち、大根葉の味噌汁、漬物
冬の間の朝食は、たいていとちもちが主となる。秋ひろったとちの実を材料に、手間をかけてつくる。とちもちは、四、五日食べる量を搗いて保存しておく。いろりのおき火でこんがり焼くか、灰の中に入れて焼き、味噌かきな粉をつけて食べる。
冬は野菜がないので、味噌汁の実は大根葉が主になる。菜洗いのとき大根葉をきれいに洗い、水切りをして漬物にしておく。塩漬にしたものを「すな」といい、水だけで漬けた大根葉を「こてずな」という。「こて」は凍っているという意味である。寒中には、金づちで割って味噌汁の実にする。
冬の朝は寒い。かか(一家の主婦)が早く起き、ゆうべ埋めておいたいろりの灰をかきおこし、榾に火をつけ、味噌汁をつくり、とちもちを焼く。焼きあがったころ、一家そろって朝食をとる。各自の箱膳が並べられ、正座して食べる。
漬物は冬の間、切り漬が主である。赤かぶ、大根、赤かぶの葉を細かく切り、塩漬にする。これを鉢に大盛りにして出す。そのまま食べると冷たくて歯にしみるから、いろりのおき火で焼いて食べる。とちもちによく合うおかずである。
冬ごもりの間のかかの仕事は、まず、米の食いのばしを計ること。四月以降米がなくなると困るので、米を浮かせるためのやりくりをする。うまい、まずいはいっていられない。
また、家中の着るものへの配慮も大変である。はげしい山仕事、野良仕事に耐える仕事着をととのえるのも冬の仕事である。

写真:冬の朝食
ひえ飯、大根葉の味噌汁、とちもち、長漬

 

出典:森基子 他編. 日本の食生活全集 21巻『聞き書 岐阜の食事』. 農山漁村文化協会, 1990, p.64-66

関連書籍詳細

日本の食生活全集21『聞き書 岐阜の食事』

森基子 他編
定価3,038円 (税込)
ISBN:9784540900044
発行日:1990/6
出版:農山漁村文化協会(農文協)
判型/頁数:A5 384頁

飛騨は山の恵み、美濃は川の恵み豊かな国。米と繭の国だが、雑穀や山菜、木の実も大切な食糧。味噌・漬物・どぶろくなど発酵食品がよく発達している。山・川の恵みを受けた八つの地区の暮らしと食を収録。
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