聞き書 岡山の食事 中国山地の食より
せきには、あらかじめ石臼でひいて粉にしたそば粉三升で、そばをつくる。
まず器にそば粉三升を入れ、水を少しずつ入れながらまん中から混ぜ、耳たぶくらいの固さになるまで十分水でおでて、直径三寸くらいのゴムまりのような玉をつくり、もちもみ板(約三尺四方)にのせて、めん棒で薄くのばす。めん棒は、直径約一寸五分、長さ約二尺四寸のもので、やおく(やわらかく)木目の細かいほおの木がよい。
巻き返すたびにそば粉を打ってのばす。めん棒に巻きついているのを、自然に四角になるようのばしていく。一人がめん棒でのばしている間中、残りの生地を一人がいつも手の中でもんでおく。これは、そば粉につなぎとして何も入れないので、上皮が乾いてしまうのを防ぐためである。
適当にのびたら、そば粉を打って屏風だたみにして細く切る。三升なべ(鉄なべ)に湯をわかし、熱湯の中にそばをぱらぱらとふりこむ。一度煮上がったら、さし水を一回して、ぐらっと煮上がればよい。ゆがした後、水でよく洗い、もろぶたに深皿一杯分(一人前)ずつ小分けにして並べる。そばのゆで汁は牛の餌にする。
そばは、半日あれば、おでてゆがすまでできる。せきには、もろぶた二枚分くらいつくる。
こうしてできたそばは、熱湯で温め、うどんどんぶりか大きい深皿に盛り、いり干しの煮だし汁に、かくし味ていどの白砂糖を入れたちょっとからめの醤油のおつ(汁)をかけ、田ぜりやねぎのみじん切り、みかんの生皮のみじん切りをのせて食べる。香りがよく、とてもおいしいものだけに、子どもも何杯もおかわりをする。
だしに使ったいり干しは、砂糖と醤油でいり煮にして食べる。
写真:年取りそば
そば、ねぎ、せり、みかんの生皮のみじん切り
出典:鶴藤鹿忠 他編. 日本の食生活全集 33巻『聞き書 岡山の食事』. 農山漁村文化協会, 1985, p.276-277