ふくちりにはだいだい酢を添えて―日常の食生活

連載日本の食生活全集

2022年02月16日

聞き書 山口の食事 城下町萩の食より

夕―麦ごはん、ふくちり、漬物
ごはんは家族七人で一日一回、白米一升に麦を三合入れ、夕食にまとめて炊く。
夕食はなべ料理のごちそうである。寒さのなかを帰ってくるおとさまや子どもたちのために、おかさまは家族が喜ぶように、精いっぱい知恵をしぼる。生きがよく値段の安い魚がたんまりあるこのあたりのおかさまは、魚料理が得意である。寒い夜は、なべ料理が一番だ。萩では湯の中へ材料を入れ、すいち(だいだい酢と醤油を合わせたもの)をつけて食べるものを「ちり」とよんでおり、湯豆腐もちりという。ちりに入れる魚は、おおば(まとうだい)、ぼてこ(かさご)、あまだいがよい。萩沖でよくとれるふくのちりは最高である。また、干しふくのすっぽん煮は日常のごちそうである。
ふくは、港から運ばれて魚屋の店頭に並ぶのを待って買う。新鮮なふくとしゅんぎくやねぎ、豆腐、小芋、しいたけ、しらたきなどを入れ、たっぷりのつゆで煮ながら食べる。酢だいだいを畑からとってきて、めいめいの器にしぼりこむ。なべに入れる材料によっても、また、だいだい酢の量によっても味の変化が楽しめ、毎日でもおいしい。なべの中の具がなくなると、もちを入れたり、ごはんを入れたりしてぞうすいにする。むだがなく最後までごちそうである。ぞうすいのあとは、たくあんがあれば十分である。
橋本川の河口にある玉江浦でとれるかきは酢がきにしたり、土手なべにしたりする。振り売りの豆腐は、湯豆腐にする。
冬のしゅんの魚といえば、脂ののった寒ぶりである。日常はもっぱら、あらを買ってあら炊きにする。
萩はかまぶこ(かまぼこ)屋が多く、原料となる小だいやえそのあらも安く買える。このあらは上等のだしになる。まとめて買い、煮こごらせておいて随時用いる。おつゆや味噌汁、野菜を炊くときに、じつによいだしとなり、いりこはいらない。
野菜でしゅんといえば、聖護院大根がある。ふろふき大根や、けんちょう(大根と豆腐の炒め煮)、味噌汁、大根なます、煮しめ、あら煮、おろし大根などにする。

写真:からだが温まるふくちり
まず、ふくのあらでだしをとってから具を入れる。

 

出典:中山清次 他編. 日本の食生活全集 35巻『聞き書 山口の食事』. 農山漁村文化協会, 1989, p.279-281

関連書籍詳細

日本の食生活全集35『聞き書 山口の食事』

中山清次 他編
定価3,038円 (税込)
ISBN:9784540890017
発行日:1989/4
出版:農山漁村文化協会(農文協)
判型/頁数:A5 382頁

日本海、響灘、周防灘の三つの海に囲まれる山口県は、西日本の陸海交通の要衝。維新以来、歴史を動かしてきた地の人々の暮らしの呼吸と食べものを伝える。
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