聞き書 長崎の食事 対馬の食より
■朝―味噌汁の味がひきたつかじめ
対馬西海岸の冬は北西の風、通称「朝鮮おろし」が強く、寒い。主婦はまだ暗いうち、海鳴りに目をさまし、朝食の用意をする。
年内に食べる麦の大部分は八月に搗きためていたが、それが切れると、毎朝その用意から始めねばならない。大麦は唐臼を踏んで精白する。天気のよい日でも搗きあげるまでに三日かかる。一回に五升ぐらい精白するので、毎日のように臼を踏む。
搗きだし(搗きたて)の麦は洗ってすぐに炊く。一度たぎったところで米を入れて、また炊く。米の量はいろいろだが、麦の二割も入れば多いほうである。これを麦飯という。
菜(おかず)は、味噌汁と大根や白菜の漬物、それにすり大根などである。味噌汁は、秋にこしらえたいわしの煮干しをだしに、実は大根、白菜、かぶなど、この季節の野菜類が多い。それでも、十二月から海草のめで(はばのり)がとれるので、二月になってめのはがとれるまでの間、汁の実として重宝に使う。また、一月には岩のりの口開けがほかの海草に先だって行なわれ、汁の実や干しのりとして新しい香りを味わうことができる。まだ冬なのに、春がもうすぐそこに来ている感じがする。
しかし、この季節にはなんといってもかじめ汁である。かじめは十一月のはじめごろになると新芽を出し始める。きざんで熱い味噌汁に入れると緑色になって、とろむ(どろっと溶ける)。これで味噌汁の味がぐっとひきたつ。
写真:冬の朝食
上:たくあん、かじめとねぎのきざんだもの(かじめ汁にする)/下:麦飯、味噌汁(大根、里芋)
出典:月川雅夫 他編. 日本の食生活全集 42巻『聞き書 長崎の食事』. 農山漁村文化協会, 1985, p.270-273