聞き書 岩手の食事 県南の食より
とり入れていた野菜(大根、じゃがいも)は、長い冬ごもりの間不自由することのないように、畑の中に穴を深く掘って(大根つもりという)埋めておく。正月から三月ころまでに食べる野菜は、すぐとり出せるように庭の隅にかまくらのような野菜むろをつくって貯蔵しておく。軒先には、干し葉やいもがらを干し連ねたままで、必要なときいつでも食べられるようにしておく。
また、小正月のころから急に冷え込みが強くなるので、このころには、一年中使う分量の凍み大根や凍み豆腐つくりもする。寒ざらしもちをつくって、春の農繁期の小昼(「たばこ」ともいう)の用意もしておく。これらは、昔から伝わる、寒気を利用した食物保存の知恵である。
■朝――酒かす入りの味噌汁で
正月から二月にかけての冬仕事に、わらじ、つまごなどわらぐつつくりや、その他の農用のわら細工をする。夜が明けないうちから、どこからともなく聞こえてくるわらを打つ音に催促される気がして、朝起きをするのである。こうして、手早い人はつまごを一日二〇足以上もつくり上げる。つまご、わらじ合わせて一人一年分として一〇〇足から一五〇足も用意するので、でき上がったつまごは家の入口の土間にずらりとかけて、いかにも自慢げである。
うす明かりがさすころになって、わら仕事の手を休め、糠釜(もみがらかまど)に燃料のもみがらを入れ、飯釜をかけ、火を入れる。ごはんは、米に麦とひえを入れた三穀飯か、米に麦を三割くらい入れた麦飯、ひえ飯、あわ飯のいずれかである。あわとひえは、家によって好みがある。
味噌汁は干し葉汁で、凍み豆腐と大根の干っ葉、少々の酒かすを入れる。酒かすが入ると、からだがぽかぽか温まる。いろりで味噌汁を煮ている脇にあぶりこ(わたしがね)をおいて、おきや熱い灰をかき寄せ、いわしのほお刺しなどを焼く。おかずはそのほかに、納豆、じゅうね(えごま)をすって味噌を混ぜる油味噌などをよくつくる。これに白菜のおひたしなどを添えれば、上等の献立である。
漬物はたくあんもあるが、この季節はがっくら漬が多く、また、ばしょうなの漬物もぴりっと辛みがあり、おいしい。
写真:冬から春の朝の日常食の例
上:(左から)油味噌、納豆/中:がっくら漬(大根とにんじんの塩こうじ漬)/下:(左から)麦飯、味噌汁(豆腐とわかめ)
出典:古沢典夫 他編. 日本の食生活全集 3巻『聞き書 岩手の食事』. 農山漁村文化協会, 1984, p.184-187