聞き書 大阪の食事 和泉海岸の食より
■春ごと
春の彼岸を境にして、潮が大きく干くころは泉織の桟橋(泉州織物会社のつくった荷扱い用の桟橋)のあたりは、潮干狩りの大人や子どもで埋まる。瓦礫や石ころを除くと、大きなあさりが砂にまみれて飛び出す。「ここにも、ここにも」と声がはずむ。
春の一日、重箱ににんに、しゃこのゆがいたものを詰めて、女、子どもで出かける。お弁当は、月日貝(貝の殻)をお手塩(小皿)にして食べる。砂だらけの手を海水で洗い、ほおばるにんにの味。浜の子の春の最高の遊びである。「春ごと」という。ひな祭りはしない。男衆はこの日も、時化でないかぎり漁に出かける。
写真:「春ごと」のお弁当
にんに、ゆでたしゃこを海岸でほおばる。
出典:上島幸子 他編. 日本の食生活全集 27巻『聞き書 大阪の食事』. 農山漁村文化協会, 1991, p.297-298