聞き書 山梨の食事 笛吹川上流の食より
春のおそい山里にも、日だまりの草むらには、ふきのとうや、もち草(よもぎ)が春を告げ、ふきのとうの酢味噌あえや、もち草入りの草もちもすぐ食卓を飾る。五月上旬になると屋敷のさんしょうの生垣も芽が伸びてくるので、養蚕の合間にかごいっぱい摘む。次いで、たらの芽、わらび、ふきなどもとれはじめ、ぼつぼつ春の味が楽しめる。
■朝――おやき、おつゆ、さんしょうのつくだ煮、山東菜の漬物
冬の寒い朝にはおねりをつくることもあるが、養蚕期の忙しい時期を除いて、朝飯はほとんどおやきを食べる。
おやきには「練り焼き」と「こね返し」の二つのつくり方があるが、忙しい朝は、簡単にできる練り焼きの方法でつくる。
もろこしの粉を熱湯ででっち、こね返しの場合は、それをいったん蒸して、再度でっちるので舌ざわりのよいものができあがるが、練り焼きは、でっちてすぐあんを包んで焼く。あんは山東菜の古漬の油炒めや、砂糖入り味噌、塩味の小豆あんなど、ときとして異なる。丸めたおやきの両面をほうろくで乾かしてから、石のかまどの内側に立てかけて焼く。ぷうとふくらんだものからとり出して、手ぬぐいで灰をぱっぱっとはたいて食べる。
いろりのまわりに家族が座り、おやきをほおばり、前の晩のほうとうをわかし直したものと、さんしょうのつくだ煮、漬物を食べる。
写真:春の朝飯
おやき、ゆうべのほうとう、たくわん
出典:福島義明 他編. 日本の食生活全集 19巻『聞き書 山梨の食事』. 農山漁村文化協会, 1990, p.81-82