聞き書 新潟の食事 岩船の食より
八月の末に、はさつき(稲を干す架をつくる)がはじまり、彼岸すぎには稲刈りがはじまる。夕方仕事を終えての帰り道、どこかでぬかいわしを焼くにおいがすると、ぐぐっと腹が鳴る。
この季節、さば、ぬかいわしをよく食べる。ぬかいわしは、春たくさんとれる安いときに大量に買って、塩とぬかとさんしょうの葉を入れて漬け、ぎっしりと重石をかけておく。夏を越して稲刈りころから食卓に出す。ぬかのついたまま生紙(和紙)に巻いてぬらし、直火で焼く。ぬかいわしはまた、細びき(せん切り)の大根にのせて煮て骨を抜き、いわしの塩気で大根に味がついたのを、熱いうちにふうふう吹いて食べるとうまい。
秋さばは米と物交で手に入れる。切身にして強めに塩を当て、熱湯でゆでて熱いうちに醤油で食べる。焼いた切身を生醤油に漬けておく焼き漬は、保存食としてよくつくる。煮豆もまとめてつくっておいてよく食べる。
秋深くなるほどに、大根が毎日のごちそうになる。けずり大根、せん切り、おろし汁、煮しめ、なます、おろしあえ。
いろんなきのこも、この季節のものだ。杉の木の切り株や、倒れて朽ちかけた杉の木に出る白い杉もたせ(杉わかえ、杉わかれ)、ぬのめ、黄だけ、はつたけ。いくら忙しくても一朝や二朝きのことりに入らねば気がすまぬという人もいる。雑ごけ(雑多なきのこ)の食べきれないのは、ゆでて塩に漬けておく。冬から春に塩出しして、ゆでじゃがいもと炒め煮にし、甘からく味つけしたのはうまい。大根汁の実に入れたりもする。
写真:秋の夕食
上:ごぼう、れんこんのきんぴら、ぬかいわし/下:麦飯、味噌汁(里芋、大根、大根おろし)
出典:本間伸夫 他編. 日本の食生活全集 15巻『聞き書 新潟の食事』. 農山漁村文化協会, 1985, p.93-94