聞き書 山梨の食事 八ケ岳山麓の食より
「暑いも寒いも彼岸まで」と昔からいい伝えられてきたが、日も長くなり、日ざしにも春を覚える。男衆は田んぼにぼつぼつ馬を連れ出して田を耕す。冬中に土を掘り返して寒にさらすと土のためによいといわれながらも、ついつい季節まで待ってしまう。桑畑にも、春肥といってうね間を掘り割りして肥料を置く仕事がある。山を眺めれば、自分の持ち山の下刈りを春にしっかりしておかないと、ならやくぬぎの木が上に伸びないので、気が気ではない。女衆は、農繁期を迎える前の作業衣の手入れや、籾種や、雑穀などの種の準備に忙しい。
■夕――おほうとう、大豆の五目煮、地菜の油炒り
おほうとうにはじゃがいも、大根、ねぎが入る。ぼつぼつ土の中に蓄えてある大根が腐りかけてくるので、たくさん入れる。大豆の五目煮は、大豆、ごぼう、にんじん、こんぶ、こんにゃくの五種類で、いろいろな味が混ぜ合わさっておいしくなる。地菜はゆっくり油炒りして、とろけるようにやわらかなものが食欲をそそる。
写真:春の夕食
おほうとう、大豆の五目煮、地菜の油炒り
出典: 福島義明 他編. 日本の食生活全集 19巻『聞き書 山梨の食事』. 農山漁村文化協会, 1990, p.191-192