聞き書 福岡の食事 筑前中山間の食より
内野は、海岸から離れているせいか、新鮮な魚貝類には恵まれない。行商の魚売りがくじらの塩ものを持って来る。くじらの塩ものは主婦の手間をとらないし、簡単に料理できる。
いわしと同じように魚鉢に入れ、無塩ものは一塩して保存する。三駄切りなどかなり激しい労働をするので、どうしてもからだが塩分を必要とする。弁当のおかずや昼飯には塩くじらが向く。
どの家でも鶏を七羽から一〇羽飼っていて、卵をときどき食べる。残った卵は店に持っていき、菓子などと交換する。妊娠したときや、農繁期などでからだが疲れたりすると、卵をすすって栄養をつける。
■昼――麦飯の茶漬、塩くじら、漬物
昼は前の晩の残りものの煮しめや、朝の味噌おつけ、漬物で間に合わせる。ときには冷や飯に熱い番茶をかけ、塩くじらを柿の葉やみかんの葉の上にのせて食べる。このように木の葉を使うと、油ものなどで皿が汚れることもなく重宝する。
写真:春の昼食
高菜漬、麦飯の茶漬、柿の葉にのせた塩くじら
出典:中村正夫 他編. 日本の食生活全集 40巻『聞き書 福岡の食事』. 農山漁村文化協会, 1987, p.50-52