聞き書 愛知の食事 名古屋の四季と食事より
ごはんは一年中麦飯で、三度の食事にはあまり変化は見られない。しかし、春ともなると、味噌汁には新わかめやしじみ、あさり、小かぶが入り、たけのこ、ふき、にんじん、さくらえびの混ぜごはんが食膳をはなやかにする。煮ものの中にも、たけのこ、ふき、にんじん、じゃがいも、かぶ、たまねぎなどの春野菜が使われる。そのほか、つぶ(たにし)とわけぎの酢味噌あえ、かつおの刺身、きすの煮つけ、わかめの酢のものなど、さわやかな味が季節の移り変わりを教えてくれる。生の魚貝類は、南区伝馬町の「千鉄」から買う。
外仕事や夜業に明け暮れる日々の楽しみは、おやつや夜食である。おやつには「長栄軒」のジャムパン、あんパン、ドイツパン(コッペパン)が出る。また、夜業を終えて銭湯に入り、大須の甘党の店「青柳」まで足をのばして食べるぜんざいもち(もち入りぜんざい)も格別である。甘い味が、疲れをいやしてくれる。この店には、ほかにも串だんごにあんをたっぷりかけたあんかけだんご、さつまいもの角切り入りの鬼まんじゅう、大福、おはぎなどがある。
写真:おやつの菓子パン
ジャムパン(左)、あんパン
出典: 星永俊 他編. 日本の食生活全集 23巻『聞き書 愛知の食事』. 農山漁村文化協会, 1988, p.23-23